あの店のあの味をあの人と。

 最近、僕の大切な人との会話の途中

「あの店のあの味を食べたいなーとか

思うことない？」と言われた。

そう言われた時

すぐにあの店もあの味も

浮かんでこなかった。

「あれー浮かんでこないですねー」で

会話を終わらせた。

この前、仕事終わりに

インフルエンザの予防接種に行ってきた。

少し大きな病院で

18:00まで受付をしてくれるから

仕事終わりでも安心していける。

その病院へ向かう途中に僕のあの店があった。

十字路で左右を確認して

車で通ろうとした時

あの店に明かりがついていたのを確認した。

注射を打ち終わった時

行ってみようと思った。

中学3年生以来、実に8年振りだ。

中学の同級生と卒業の少し前に

行ったのを覚えている。

お店の近所の同級生の家で遊んでいて

昼飯か小腹が空いたのかわからないが

この店で1人ずつのラーメンと

みんなで1つの寿司を食べた。

病院からすぐに車を走らせた。

そのお店はまだ明かりがついたままで

ホッとした。

ガラガラと中に入ると

店主とその奥さんと猫がいた。

僕たちがあの時座っていた場所は

明かりが消されていた。

カウンターに座らせてもらった。

右隣にストーブの方を向いて

白黒の猫が座ってくれている。

あの時と同じようにしようと

寿司とラーメンのセットがあったので

それを1つ頼んだ。

目の前で寿司を握ってくれた。

カウンターに飾られている

メニューを見て

次は何を食べに来ようかなと

思って待っていたら

奥さんが料理を運んできてくれた。

僕は漬物が苦手で

付け合わせで漬物が出ると

先にそれだけを食べるのだけど

ここは付け合わせが

ポテサラに卵焼きそれと

厚揚げと糸こんと煮物。

だから先に食べなかった。

食べる前に写真を撮った。

あまり料理の写真を撮らないけど

報告用で撮った。

ゆっくり食べれて

とても美味しかった。

美味しかったので

ガリも食べた。

初めて食べたくらいに

久々に食べた。

美味しかった。

食べ終わろうとした時、店主から

「雪降りそうだね」

と話しかけてもらった。

僕も

「もう、タイヤ交換しちゃいましたよ」

と話した。

その会話の中、僕が8年振りに

この店に来た事を話した。

そしたら店主が

「まだ、この店があってビックリしたでしょ」と

そう、奥さんと笑いながら聞いてきたりした。

あってよかった。

近所の同級生のことも知っていた。

帰る時

「また、ふと思い出した時でいいから

また来てね。」と言われた。

また来ます。

その夜

報告用で撮った写真を

あの時の同級生の中で

唯一連絡先を持っている友達に

写真と覚えてる？のメッセージを

送った。

また案の定、ハッキリ覚えてなかったけど

久しぶりに連絡を取れた。

2年前より今の方が

話せるようになっている気がすると

久しぶりに連絡して思う。

今度、その同級生が帰って来たら

一緒にここで飯でも食えたらいいな。

何年か振りに連絡すると

宗教勧誘なんじゃないかとか

お金を貸して欲しいんじゃないかとか

そんなことを思われたり、する。

そう思われないように

小さい思い出を理由に

こうやって話しかける。

僕に取っての「あの店」は

「あの味」とセットというよりかは

「あの人」や「あの人たち」と

セットなのかもしれない。

あの店であの人と

あの店であの人たちと。

何を食べたかは

覚えているけど

それよりも誰と食べたかを

ずっと覚えていたい。